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見回せば辺りに広がる草原。其の中心に佇む金髪の青年こと社長は、いきなりの事で頭を混乱させていた。何故なら彼はついさっきまで自室に居た筈なのだから。
「夢、だよね……?」
非現実的な出来事にそんな事を考える社長。しかし夢の割には思考ははっきりとしている。オマケに暖かく新鮮な空気、其れに乗って運ばれる緑の臭いと、情景も余りに鮮明で夢にしたら出来過ぎていた。
「待てー、待てー」
其処で兎を追い掛ける一人の少年。此方に向かって来た兎を社長は何の気なしに捕まえて差し出してみると、少年の視線はいつの間にか此方に向いていた。
「異人さんだ!」
金色の髪を物珍しそうに見詰める黒髪の少年。質素な着物を身に付けた姿は恐らく母国の者、其れ所か社長の生きる時代の者でない証だろう。
(僕、何処来ちゃったんだろ……)
思考を巡らしていると、不意に力強く腕を引かれた。見れば少年が自分を引っ張っている。
「き、君!?」
「オイラ異人さん見るの初めてだ!」
抵抗する間もなく其のまま少年の家に引っ張られた社長。おもちゃを売っているらしく、玄関には様々な古い作りのおもちゃが飾られていた。
「じっちゃっ! 異人さん!!」
少年の声に反応し、奥からのろのろと現れた一人の老人。分厚い眼鏡越しにじっと彼を見ると、“あぁ、珍しい”と呟いた。
「まーまー、上がっていきんしゃい」
気さくに話し掛けられ、社長は取り合えず畳に腰を下ろし、与えられた茶をすする。
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