石ころ

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「うわっ!」  至近距離だったが、男は辛うじて石を避けると反射的に間合いを開く。其れが彼の狙いとも知らず。 「えいっ」  石ころが投げられる。男の顔に向かって。頑張って当たる様に、青年は無邪気に投げる。 「止めろ! 餓鬼は返したろう!?」 「じゃ、何で視界から消えないの? もう用は無いよ」  しかし此方にはある。子供の穴埋めが充分出来る掘り出し物が、目の前に在るのだ。そう簡単に退く訳にはいかない。  だが石から逃れようとすればする程、男は青年から離れて行く。遠距離だからと此方も石を投げたら、更に青年は離れるだろう。 「……只の、石ころで、諦めてたまるか……っ!」  投げられる石も気にせず、唐突に男は走り出すと青年の腕を掴み其のまま押し倒した。自分と男の体重が同時に掛かり、青年は少し顔を歪める。 「痛いじゃないか」  しかし間髪入れずに青年は男の腹を蹴り上げ、更に腕の力が抜けた隙を狙い思い切り拳を喰らわした。  男が自分の上から離れ倒れ込むと、青年は仕返しと言わんばかりに男を踏みつける。 「……ぐっ。ど、けっ……」 「ははっ、ヤだよ」  まるで悪魔の様な返答。無邪気に笑う青年の瞳からは、もう日向の様な暖かさは感じられなかった。
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