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ごぽん……
口からもれた気泡が水中を漂い、水面へと消えていく。しかし浮き上がる気泡とは対照的に、“彼”の身体は沈んでいくばかり。
(……水中?)
下を見てみると砂利が認識でき、川の中という事が予測される。だが川の割には流れは無く、魚も水草も見当たら無い。
(何で、こんな所に……)
取り敢えず水面に上がろうとするが、身体が重くて身動きがとれない。
人間の身体は必ず浮く造りになっている。では何故浮かないのだろうと服に触れてみると、何やら硬い物が入っていた。
(……石?)
幾つも幾つも幾つも、服に潜り混んでいた石ころ。
其れを取り出す間も無く身体は沈み、全身が水圧で圧迫され肺へ水が入ろうと口から侵入して来る。
(嗚呼、そっか)
沈む、沈む。
(此れ、は)
石の様に、死の淵へ。
(……報い……。
って、そんな訳ないでしょ夢だよユ・メ!」
そう叫びながら、社長は目覚めた。
「……え」
朝日が射し込む一室で、ソファから起き上がった社長は、状況を飲み込もうと辺りを見回す。
寝る前と何処も変わらない自分の部屋。先程までの情景が嘘の様だった。
ただ、片手に握られた煎餅が名残を残すのみで。
「夢じゃない、か」
そう言うと、社長はシルクハットを被り会社へと向かって行った。
濃くなった影に、気付く事も無く。
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