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「望み、か。共に過ごせた“思い出”を消して、此の苦しみを忘れたいな」 「消す? 思い出は多かれ少なかれ、廃れる物だよ? 其れに何で“楽しかった”事を消すんだい。最高の一時を後の苦しみの為だけに消すのかい?」  僕なら消さない。 「そんなの詰まらないじゃないか。知らぬが仏って言葉が在るけど、僕はそうは思わない。知らないで後悔するのは御免だ、例え知って苦しくなっても其れで後悔はしない」 「……強いな、貴公は」  私には此の苦しみに耐えられない。そう言うと、ルイは机の上に置いてあった小さな箱を見せた。  中には紅い、大きな宝石が付けられた指輪が入っている。恐らく結婚指輪だろう。 「私は愚か者だな。自分の苦しさに、知れた幸せに目を背けるとは……」  そう言って、ルイは部屋に置かれたレイピアを一振りダイスに手渡す。 「だが、ソフィーは苦しんで欲しくない。そして、私の思いを伝えたい」 「……家は、どうするんだい」 「兄弟が継いでくれるだろう。心配は要らん。私も家族は大切だ、裏切りたくない。……だからダイス、頼みがある」  其の夜、屋敷は悲鳴と悲しみで溢れた。屋敷に住む侯爵の長男が、自室で殺されていたのだ。  強盗にでも入られたのだろう、必死の攻防戦の痕がレイピアを持つルイと其の自室が語っている。
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