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とうに太陽も沈み、草木も眠っているだろう、暗く寒い夜。にも関わらず未だに灯りが付いているとある会社の一室。
部屋の扉、其の脇にあるパネルには『社長室』と言う文字が刻まれている。
カタカタ、カタカタ
其の部屋で、無表情でキーボードを打つのは金髪の青年。緑の瞳はパソコンの画面だけを見詰め、唯仕事に明け暮れる。
そんな彼の前に気品で利発そうな、眼鏡を掛けた女性が現れた。彼女もまた金髪を持ち、其れを後頭部で綺麗に巻き上げ纏めている。
「社長、コーヒー御持ちしました」
「パス。苦いのヤだ」
子供の様な発言により、社長と呼ばれた金髪の青年は女性に頭を軽く叩かれる。
「眠気覚ましと思って!」
「今ので覚めた」
更に押されたが、金髪の青年は後頭部を擦り涙目で訴え拒否した。彼は端からでも二十代前半だろう事は容易に見て取れ、明らかに目の前の女性よりも若く、上下関係が不釣り合いに感じる。
其れでも、金髪の青年は社長であり、女性の上司である事に変わりはない。
「うぅっ、シエイエスの馬鹿。データ消しちゃうなんて酷いよ」
「消してしまった物は仕方ありません。本人も反省していますし、今は最善の事をしましょう」
部下の一人、シエイエスの失態の穴埋めの為に社長はキーを叩いた。其の苦痛の表情はまるで、ゲームのセーブデータを消された子供に似ている。
「今度シエイエスに社長の座を渡そうと思ったのに、何で株下げちゃうかな……」
「社長、寝言は寝てから言って下さい」
「じゃあドリスが社長やるかい?」
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