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書かれていたのは会社が取り扱うおもちゃの新商品について。図も分かりやすい説明も書かれ、加えて対象年齢に合った教育面も考慮されている。
「候補というか、もう採用レベルじゃないですか社長」
だがドリスが顔を上げた時には、既に彼の姿はなかった。
会社を出て家に帰った社長は、荷物を放り投げると重い身体をリビングにある黒いソファに沈めた。
其の部屋にある大型のテレビの前には幾つものゲーム機が置いてあるが、其れ以外は最低限の家具しか置いていない簡素な所。
(仕事ヤだ、遊びたい……)
切実な願い。金には困っていない、一人暮らしも出来ている。だが自分が社長の座から降りようとすると、何故か秘書や部下から止められる。
(ドリスは頭良いし、シエイエスは天然だけど真面目だし……)
自分がいなくとも会社は大丈夫の筈だが。
「……退屈だな」
狭い空間で響く低い声。彼にとって一人遊びほど詰まらない物は無い。其の為、親も兄弟も持たぬ彼にとって帰宅は只の不毛な時間。
いっそ嫌な仕事をした方が退屈しのぎになる。しかし其れでは意味が無い。
(でも同級生からは何でか避けられるし、会社じゃ同輩すら居ないし……)
遊ぶにも彼には遊び相手が居なかった。友人と呼べる人を持ってないのだ。
人当たりが悪い訳では無い。寧ろ気さくで接しやすい性格なのに気が付けば一人で、其の退屈を紛らわそうと勉学に励んだら更に避けられる。今は其れが仕事に変わっただけ。
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