1色目・私のパレット

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先生が吸い込んだ煙を吐き出し、外を眺めながらボソリと口にする。 「まあ、みゃーこの場合は大変かもしんないねぇ。」 「え?」 「あんたが入部試験で提出した絵。アレには衝撃受けたもん。」 「ああ。あの絵ですか────」 私の通う高校の美術部には、部費などの問題もあって入部試験があったりする。 先生は、その時私が提出した作品の事を言っているのだ。 「みんなはモチーフを持ち込んでデッサンしてんのに、みゃーこだけがイメージを元に描いてたからねぇ。」 「私は、デッサンが苦手ですから。」 「それでも凄かった・・・並木道に佇む女の子がすごく淋しそうに見えたのを覚えてる。コレを描いた子は、凄い淋しかったんだろうなぁって・・・そう思った。」 「─────。」 やっぱり先生は凄い。 たった1日で描いた絵から、その時の私の感情まで読み取っていたなんて思わなかった。 「絵に感情を込めるなんてさ、なかなかできないよ?」 「偶然ですよ、きっと────」 「いいや。偶然なんてないよ。人間だもん、何にしても【良くしたい】とか【綺麗に描きたい】とか思うじゃない?そのままの感情を描き上げるなんて、そうそうできないって。」 「そう言うものですか?」 「そうそう。だから、先生がお墨付きをあげよう。みゃーこは、素敵な絵が描ける!それは間違いないっ!」 「あはは────」 演説するかのように、握りこぶしを作って力説する先生。 その姿に、私は思わず笑ってしまう。 「とはいえさぁ・・・その絵の評価が、周囲の基準になっちゃってるわけだし。みゃーこがモチーフ探しに困ってるのは、少しわかるかなぁ。」 「あ────」 先程とはうって変わって、苦笑いを浮かべる先生。 その言葉を聞いた私は、言葉に詰まる。 込められた感情を読み取れた先生でも、私が描けずにいる理由までは読み取れていないのだ。 当然と言えば当然な話だ。 なぜなら私は──── 描けずにいる理由を この悩みの原因を 誰にも話していないのだから。 パンッ! 「────っ!?」 一瞬、ボーッとしてしまった私の耳に手を叩く音が飛び込んで来た。 その事で、私は現実に引き戻される。 どうやら、先生が手を叩いたらしい。
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