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「ムック、前みたいにぼっこ(棒)くわえるべか?」
「やってみるか(笑)」
母は、窓をトントンと叩きムックの名を呼ぶ。
母が家から見えると、必ずと言っても良いくらい、その辺に転がっている物(餌用と水用の容器や枝)を急いでくわえる。
あまりにも慌て過ぎて、自分のウンチを咥えていた事にムックも気付き、ボトッと落す時もあった。
もうそんな慌てん坊の姿は見る事は2度と来ないと思っていた。
でも……
ムックは、落ちていた枝を咥えてこちらを見た。
かすかに振っている尻尾。
ムックが交通事故に遭い、医師に安楽死とも言われたムック。
この世に生を受けて、私が10歳の時に飼って8歳になる。
人間で言えばおじいちゃんくらいになるのか?
あの時……普通ならムックをこれ以上苦しませない為も安楽死とも選択肢はあったが、それを簡単に“お願いします”と言わなくて……良かった。
安楽死はたしかに簡単。
人間側の考えで、動物側の意思なんてわからないから、そう感じしてしまうけど、私の目の前で事故っても、私の腕の中に帰ってきた。
ムックはそれでも生きていたかったんだ。
体は半身麻痺でも、今こうして闘って今ムックがいる。
ぼっこ(棒)を咥えて、こちらを見る姿に生きる生命力は凄いとつくづく痛感した。
人間に飼われていた動物は、飼い主し自分の死を見せない為に居なくなると聞く。
だけど、ムックには小さい時頃に
“ムックが死ぬ時は、蘭の腕か傍だよ?
お前は、蘭の子なんだからね”と言った事があった。
自然とムックの姿に涙が出た。
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