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「おまえ」
俺は気付いた。彼女の瞳にも表情にも恐怖が感じられないことに。
「俺が怖くないのか」
目の前で味方であるはずの浅川の武将をためらいもなく殺した俺が。
「……」
少女はこくりと頷いた。
「なぜ」
「あなたは、とてもかなしい目をしているから。冷たいけれど、かなしい、ひとみ」
だからこわくはないの、と彼女は言葉を続ける。細くて長い両手を伸ばし、柔らかく温かい手で俺の頬に触れる。
「あなたは、かなしくて、さみしくて、どうしようもなく、苦しんでる」
「何を」
何を言っているのだ、この少女は。
苦しんでいるだと? この俺が。
「あなたは多分、わたしとおんなじ……」
「同じ?」
少女がこくりと頷く。
強い風が吹き、少女の髪と衣装をなびかせる。その姿がなぜか、とても美しく見えて、天上の姫神が産まれる場所を間違えたのではないかとそんな風にさえ思えた。
「みたされない、かなしい人……あなたは戦うことでこころの空白をうめようとしているんでしょう? それでもその空白はうまらなくて、みたされないで、いるの。……ひとみがそういってるわ」
少女が汚れない赤銅色の瞳で俺を真っすぐに見つめながら歌うように語り出す。
──止めてくれ、そんな瞳で見ないでくれ。
今まで隠し続けて来た俺の全てを見透かされているようで、目を合わせたくなかった。だが、そんな気持ちとは逆に俺は目を剃らせずにいた。
戦場であるはずの場所。そこら中から騒音が聞こえているはずだが、俺達が立っているその場所の空間はいつの間にか少女が支配していた。
周りの声や音は聞こえない。ただ、吹き抜ける風で草木の鳴る静かな音と少女の声、そして、自分自身の声だけが耳に届く。
「自分を必要としてくれる人はいない……自分は必要とされていない……あなたはそう思ってる。だから苦しい……」
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