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「出来ない。殺せない。殺したくない」
自然とその言葉がもれた。
「おまえは、俺とおまえが同じだと言った。自分は誰からも必要とされていない、自分を必要としてくれる者はいない、そう思っているから苦しんでいるのだと。
ああ、確かにその通りだ! 自分を必要としてくれる存在がいたから、かつての俺は幸福だった。生きる意味があった。だから死を恐れたし、誰かを殺めるのも嫌だった。
だが今は違う。俺に生きる意味を与えてくれる人はいない。生きていると実感させてくれる人はいない」
そしていつからか死を、恐れなくなった。死を求めるようになった。死に場所を求めるようになった。
「生きていると言う実感を得る為、そして死に場所を探す為に戦場を次から次へとさすらう日々を過ごした。自ら命を断てば、生きる権利を理不尽に奪われたあいつに顔向けが出来ないから」
だから戦い続けた。
そうすることでしか、生きられなかった。
そんな風に独りで苦しんでいるのはずっと、俺だけだと思っていた。誰からも必要とされず、誰にも心を開かず独りで生きているのは自分だけだと。
「それでも俺は戦えば良かった!」
戦って、名を馳せれば俺の力を求める奴も出てくる。利用するだけされて、戦いが終われば『はいさようなら』でも、心を落ち着けられる場所が無くても、戦場が俺の居場所だった。戦いに生きる意味を見出だせた。
「だがおまえは違う……! おまえは居場所を見付けることも、生きる意味を見出だすことも出来ず、独りきりで絶望した。同じ辛さを、それも自分以上の辛さを知っているおまえを、俺に殺せるわけがない。ましてやおまえはまだ幼い少女──大して年端もいかないおまえにそんな哀しい最期をおくらせたくなんかないんだ……!」
「だけどわたしは、ひとりはいや」
少女は俺に歩み寄り、身体に手を当てると目に涙を溜めながらすがるような表情で俺を見上げる。
「わたしのせいでたくさんの人が死んでいくのもいや。もう、すべてがいやなの……さみしくて、くるしくて、かなしくて、胸がいたくて……いきていることは、苦痛でしかないの。おねがい、終わらせて、わたしを、殺して。おねがい、だから……」
その場に瞳から涙を溢れさせ、その場で泣き崩れる彼女に俺は何も言葉をかけてやることが出来ず、けれど彼女の望みを叶えてやることも出来ず、自分が嫌になった。
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