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サァァァー……
優しく静かな風が吹き抜ける。
「俺と来い」
ふと口にしてしまったその言葉。なぜそんな言葉を口にしてしまったのかはわからないが、それは確かに自分の意思で口にした言葉だった。
うずくまって泣いていた少女がそっと顔を上げる。
彼女の頬には瞳から零れ落ちた雫が描く線が何本も残っている。
未だ留まらぬ涙に濡れた頬。泣いたせいで赤く腫れた目。返り血を浴びた鎧に触れたことで所々が赤黒く染まる衣──それでもなお、彼女は美しかった。
「独りなのも、生きることに疲れたのも、俺と同じだ。独りが嫌なら、俺がおまえと居てやろう。俺がおまえを守る。俺も独りでいることに疲れた。独りで生きることにも……」
自分の口から次々と紡ぎ出される言葉は今までの自分ならば決して出なかったであろう提案。
久しく忘れていた、いや、己の奥底に鍵をかけて閉じ込めていた優しさからのそれは深く考えて口にした言葉じゃない。
ただ自然に、ごく当たり前のように俺の口から紡むがれたもの。
その事実に自分でも驚いた。それでも言葉は次々と溢れてくる。
「俺とおまえは同じだとおまえは言った。そう、同じなんだ。同じだからこそ、生きてほしい。俺がおまえの居場所になる。だから、生きてくれ。それとも血に汚れた身では清らかなおまえの居場所にはなれないのか?」
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