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少女が首を横に振る。
「そんなこと、ない。そんなこと、ない、よ。でも……」
そして、潤む瞳で俺を見上げた。
「わたし、樫哉さまや浅川の人たちの目をぬすんで、にげてきたから……わたしをたすけて、一緒にいたら、あなたは葛葉からも浅川からも追われてしまう……だから、だめ……」
「追っ手なんか斬り捨てれば良い。もしそれが嫌なら俺はどこまででも一緒に逃げてやる。どちらかが死ぬまで、一緒に居てやる。今更どこかの国に追われようが、俺は構わない」
ただ、この少女を孤独から救ってやれれば良い。ただ、彼女の絶望を少しでも和らげてやることが出来れば良い。俺はこの時、本気でそう思った。
誰かを守りたい。救いたい。それは俺が久しく忘れていた感情で、長い間、冷え切っていた自分の胸に暖かさを感じた。
「……ほんとうにいいの……? わたし、あなたといてもいいの?」
か細く震えるような声で彼女が問う。すがるように。
「ああ。おまえが望むなら」
「―…わたし、もう、ひとりじゃ、ない……?」
返り血も気にせず、少女はぴたりと俺の体を触れさせて涙を流した。
「ああ、そうだ。これからは俺がいる。おまえはもう孤独じゃない」
俺は彼女の肩を抱き寄せて髪を撫でる。
「ありがとう……」
彼女はただ一言そう告げた。
さあ行こう。二人の旅に。これが俺たちの新しい、始まり。
END
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