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およそ一〇〇メートル先で、大地の咆哮が轟く。
地面の裂け目から噴き出るのは火炎放射のソレだった。
天を衝く勢いで上昇していく火柱は、地上から三〇〇メートルの位置が上限なのか、噴き出る勢いを維持しつつ停滞している。
これは序章に過ぎない――エレンの本能がそう告げた。
最初に噴き出た火柱を原点として、先程の震動と爆音が左右で同じ現象を生み出したと思えば、天空を駆ける龍の如く上空へ飛び出す二本の火柱が出現したのだ。
それが連鎖となって、エレンを中心とした半径一〇〇メートル周囲に無数の火柱が地面を突き破ってその姿を現していく。
目の前に映る世界が劇的な変貌を遂げつつある状況に、エレンは呆気に取られて身動きも出来なかった。
そして、周囲全てを火柱で覆い尽くし終わると、今度は上空を奔る無数の火の糸が、火柱の先端から放出される。
火線は互いに絡まり合い、最終的には子犬一匹すら通り抜けられない程の網状の天井を展開させた。
周囲の温度を瞬く間に灼熱地獄へと変貌させた煉獄の世界。
人間ならば呼吸するだけで死に至る拷問の檻――それは炎で創られた牢獄だった。
無論、出口など存在しない。
側面よりも三〇〇メートル上空に塞ぐ網状の天井を突き破るのが得策かと思う処ではあるが、あの火線の火力は火柱の比ではないのだ。
一度でも皮膚を触れさせたものならば全身を燃え尽くす勢いで炎が纏わり付くし、研いだ剣よりも高い鋭利を持っている以上、強行突破は愚の骨頂だ。
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