2609人が本棚に入れています
本棚に追加
絶体絶命を余儀なくされている状況下でもなお、エレンは「ふむ」と、稀に見ぬ絶景を堪能するかのような溜め息を漏らし、この現象を舞い起こした張本人に向け言い放った。
「さすがは《煉獄の狂炎》……《六人の覚醒者》に君臨するに相応しい実力を持っている。その魔剣は主の命令を聞かぬ暴れ馬同様だ。それを抵抗なく使いこなせているという事は、《インフェルノ》もようやくまともな主に仕えたと見える」
己が闘っている相手が《煉獄の狂炎》と知りながらも挑んで来たケースは、クロノは初めてであった。
それ以上に、この人の手に余る極致の技を目の当たりにした人間は驚愕よりも恐怖が勝って戦意喪失する場合が大半なのだが、ここでもまさかの余裕を見せ付けられるとは思いもしなかった。
「この状況で敵を褒めるか普通……。それに、まるで俺より以前の継承者達を見て来たような言い様をするんだな、アンタ。ますますアンタの正体が気味悪く思えてきやがった」
「私は思った事は素直に口にする性格だ。まあ、その所為で色々と煙たがれているがな。しかし《煉獄の狂炎》よ。『《タンヘリム》の活性化率を半分以下に強制されていながらこの大規模な技を軽々とやり遂げる』あたり、貴様は覚醒者というよりも――」
そこでエレンの言葉は意図的に途切られた。
言わずとも理解出来る内容をこれ以上口に出す事もないだろうという判断からなのか。
しかし、クロノの気掛かりは自分に対する言われ方ではなく、『隠していた秘密』を最初から見破っているような言い草に目を細め、口元を不敵に吊り上げた。
〝気が変わった。こいつは殺さずに捉える〟
最初のコメントを投稿しよう!