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《タンヘリム》を通して上空へ避難する仲間にそう告げると、地面に突き刺した《インフェルノ》を引き抜いた。
敵を『捉える』という決定事項に至った説明を求めたリンだったが、もはや彼女の言葉は聞く耳を持たず、全神経がエレンを倒す事だけに注がれる。
「ここは俺の戦況を有利に運ぶ舞台(ステージ)だ。悪いが、アンタの力は最小限にまで抑えさせてもらう」
力を最小限に――その言葉の意味を、エレンは己の武器に視線を移動させた。
炎を媒介に形成された剣は、先程まで燃え盛っていた勢いとは比べ物にならない程に小さく弱々しいものとなっていた。
全長二〇センチ……もはや短剣と見受けられても不思議でない大きさ。
試しに《タンヘリム》を活性化させ炎を増大させてみようとするが、肝心の剣は一ミリも増長してはくれなかった。
これがクロノの能力。
これが《煉獄の狂炎》のみが扱える《インフェルノ》の真の力――。
他者の能力関係なく、全ての炎を支配下に置く事が出来る魔の力は、例外なくエレンも対象となる。
効果範囲はこの炎の檻内限定だが、それが齎(もたら)す威力と効果は絶大にして、覚醒者が持ち備える数多くの技とは比較すら許されぬ程に圧倒であった。
剣を形成していた炎の約九割をクロノに奪われてしまった事になるのだが、まだ形成出来る程の余力を残されている処を推測するに、どうやら猶予を残してくれていると窺える。
「アンタに最後の命乞いをさせてやる。俺に降伏し、自ら己の正体を暴いてみせろ。――さもなければ、アンタの炎は自分を燃やし尽くすぞ」
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