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〝クロノ……ッ!!〟
リンの言葉よりも先に『異常』を察知したクロノが、驚愕に見開かれた両目を〝死体〟へと向けた。
対象物を燃やし尽くす筈の揺らめく炎が、人の形を成していた。
揺らめく炎の奥で欄々と光る二つの紅炎が、尚熱く、尚紅く、クロノを捉えている。
灰すら残さないクロノの炎に焼かれても尚――否、どのような理不尽な力を身に受けようとも、その身体に傷一つ負わせられない。
それはまさに、人間を、覚醒者を超越せし〝神〟の領域に辿り着いた者へと賜物でしかない。
「いくら力を半減されているとはいえ、この程度で最強の名を手にするか」
燃え盛る紅蓮の中で『何か』がそう告げる。
刹那、炎の牢獄にあり得る筈の無い突風が二人の間を吹き抜けた。
炎により熱せられた風が砂塵を巻き上げて、人の形をした炎を中心に渦を巻いていく。
瞬く間にエレンに纏っていた炎は風により剥離されると、そこには外傷も衣服も、最初からなんの被害も受けていない真紅の女性の姿があった。
「本当に、何者だテメェは……」
氷のような凍てついた口調で放たれた言葉にどこを刺激されたのか、エレンは嗜虐的な笑みを面に出した。
「貴様は、貴様に牙を剥いた私を、そして私を倒した先に待つ獲物を狩るのが仕事じゃないかのか? それなのに、どうして苦渋を噛み締めるような顔をしている? 私と貴様の力の差を知るには、まだ互いに手の内を見せ合っていないというのに」
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