『戦火の炎』

17/22

2609人が本棚に入れています
本棚に追加
/184ページ
生まれて初めて感じる焦燥に、彼は顔を歪ませていた。 最強と謳われ、証として最高の攻撃力を誇る《インフェルノ》を継承したクロノにとって、全身全霊を懸けて戦える相手などこの世に存在しないものと決め込んでいた。 何故なら、文字通りクロノという男は『誰よりも強い覚醒者』であるし、現在この世界に君臨している覚醒者の頂点に立つ存在なのである。 故に、自分を超える存在が現れるとするのならば、後に天武の才を持って生まれ来る猛者か、又は《煉獄の狂炎》の生命力が尽き果てるかのどちらかだ。 彼の目の前に佇む女は、クロノが望んでいた強き者――煉獄の狂炎と対等、又はそれ以上の力を持つ強敵者に他ならない。 ――否。 クロノの求めていた強者の対象に、エレンは当て嵌まらない。 根本的に何かが違う。 何かがおかしい。 彼の覚醒者として、人間としての本能が〝不可解〟だと訴えている。 例えば、クロノを超える覚醒者が現れたとして。 その覚醒者がクロノの炎を受けた場合、衣服は燃え、皮膚は焼け爛れる。 全ての《タンヘリム》を動員して傷の治癒を優先させても、一瞬で火傷の痕は無くならない。 クロノが知る覚醒者の中でも、ほんの切傷を癒すのに掛かる治癒時間は最短でも三秒弱。 しかし、エレンは死に至る程の火傷を全身に負い、尚且つ衣服が全焼したのにも関わらず、それが最初から炎を身に受けていなかったかのような姿で再び現れた。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2609人が本棚に入れています
本棚に追加