2609人が本棚に入れています
本棚に追加
/184ページ
全身の火傷を一瞬の時間で再生可能だとしても、燃え散った衣服の再生など、そのような異能は存在しない。
目の前にいる女は……果たして人なのかと――。
もし、私は人間の皮を被った化け物だと告げられたのならば、例えそれが虚言であったとしても、今だけは信じてしまっても不思議ではない。
「俺を倒せる奴なんてこの世に誰もいない。俺が最強である以上、他者を寄せ付けない圧倒的な力を持っている以上、俺は自分を『化け物』か何かかと考えていた事もあった。だが、今はっきりと違うと断言出来る」
振り翳した《インフェルノ》の剣先が、エレンの方へ向けられる。
「感謝するぜ、〝化け物〟さん。アンタの存在が、これから俺がどんな道へ進もうが、どこまで常識外れの力を発揮しようが、俺の本質はそこらにいる人間と何も変わらない事が証明される」
優越に浸る気分が押し寄せてくるも、クロノはそれを抑え込んだ。
目の前にいる〝化け物〟が、クロノの言葉を耳にした途端、その真紅の瞳が悲壮に彩られていたからだ。
しかし、それも一瞬の事で、再び狂気に満ちた嗜虐の瞳を以て、エレンは発言する。
「ならばどうする? 貴様が私の存在を必要不可欠と宣言するのならば、私を逃がすか? 貴様の私利私欲の為に」
「ハッ! 馬鹿を抜かすな。最強の名をここで終わらすほど、俺も無責任じゃないんでね。俺を最強と崇め称える馬鹿な民衆の為、俺の名誉の為、そして俺自身の為に、この無名の土地は、今から貴様の墓場となる」
最初のコメントを投稿しよう!