『戦火の炎』

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それこそ私利私欲と言われてもおかしくない言動であったが、既に戦闘態勢……一呼吸後に突進を開始する姿勢は戦慄を極めた。 どうやら〝本気〟で殺しにくるクロノに、エレンは堪忍だとばかりに苦笑を見せ、 「了承だ。貴様が言ったのだ、この私を〝化け物〟だと。――ならば、証明せねばなるまい?」 爆ぜた地面が宙を舞う。 『瞬間移動』の能力を持つ覚醒者と見違える程の神速を持ってして、クロノの牙が虚空を斬る。 ――それは最初に見せたエレンの速力をも上回っていた。 事実、エレンの動体視力ではクロノの姿を捉える事はおろか、戦闘時における最大の武器である『直感』ですら働かない。 背後ではなく左側面を狙いに定めたクロノの判断は間違ってはいなかった。 武器を持つ右手側より、敵が不意を突いて狙う背後より、最も反撃と防御に対する経験が乏しい逆手こそ、無防備の状態が極めて高い。 防御を取るか――エレンであれば敢えて攻撃に転ずる手段があるかもしれない。 だが、それでもクロノの優勢は確実であった。 例えどのような手段を用いたとしても、クロノの一撃に必ず隙が生まれ、エレンの窮地が約束される。 〝さあ――この状況を覆してみやがれっ!!〟 それは勝ち誇った者が行う挑発行為であった。 渾身を以て空を喰い破る《インフェルノ》の刃先は―― エレンの胴体を両断する刹那に、クロノは己が獲物の解除を余儀なくされた。 勝利は目前であった。 勝鬨を上げるのは紛れもなくクロノとリンの二人であった。 ――それが、どうしてエレンに勝利の女神が味方するのか。
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