『戦火の炎』

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あのまま《インフェルノ》を解除していなければ、地面に屍として朽ちていたのは、クロノ自身だと、一体誰が想像しようものか。 クロノの猛攻からエレンを〝護った〟のは、天上からの暴威だった。 上空から様子を窺っていたリンでさえ、更なる上空からの援護射撃が発射されようとは思いもしなかった事だろう。 リンが見上げた遥か上空は、既に星々の光輝は見失われていた。 視界に映るのは、不気味な程に黒かった。 その黒い空間は悪魔の入口に繋がっており、今この瞬間にも、そこから人間で在らざる者達が有象無象に這ってくるようであった。 リンは夜空を覆い尽くしているのが分厚い雲だと理解するのに時間は要しなかったものの……しかし、どうして。 「はっ……まさか、かよ」 背筋に感じる冷たい感覚が、より一層の現実味となって事実を思い知らされる。 クロノはその両眼に、先程の光景がはっきりと焼き付けられていた。 《インフェルノ》がエレンを両断しようとした瞬間、鼓膜を破る程の雷鳴が轟いた。 これまでにない程の生命の危機を感じたクロノは、思考よりも直感に従い《インフェルノ》を解除すると、ほぼ同時に彼とエレンの間に――彼女を中心とした半径一メートル辺りで落雷が起こったのだ。 これが何億分の一の偶然の確率ではない事は誰の目から見ても明らかであった。 まさに、〝天〟そのものがエレンに味方していると思えない程に。 「アンタ……炎だけじゃなく、雷も扱えるなんて反則技だろ。――それも《電神の鉄槌》と匹敵する程の」
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