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と、内心でそう思っていると彼女が俺の方に振り向いてきた。
見ているだけで癒されそうな彼女の顔が、今では少しだけ頬を膨らませて不機嫌になっている。
どうやら、ちょっとだけ怒らせてしまったようだ。
「せっかく教えてあげたのに。そんな態度をする人にはもう何も教えてあげないから」
ぷいっ、と俺に背を向ける。
こうなると彼女は一向に俺の話を聞かなくなるのだ。
今日はこの後で大事な仕事がある。
彼女の不機嫌が直らないとなると、個人的にとても困る。
「よし、分かった」
「何が分かったのよ?」
俺の言葉の意味が理解出来ない彼女は、先程よりも不機嫌そうに顔をしかめている。
「君がさっき言った事さ。海が見たいんだろ?」
予想にもしていなかったのだろう。
膨れた彼女の頬が、一瞬にして元の状態に戻った。
きょとんとした目を俺に向けている。
「俺が連れて行ってあげるよ」
予想にもしていなかっただろう台詞に、心底驚きを隠せない彼女は、両目を何度も見開いている。
しかし、それも数秒が限界のようで、半分開いていた口元が吊り上がる。
「……ふ、ふふっ」
「って、何がおかしいんだよ」
「ごめんごめん。あまりにも唐突な事を言うから」
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