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「なっ、冗談なんかじゃないってっ」
「うんうん分かってる。絶対海に連れて行ってくれるんだよね?」
「絶対信用してない顔だ」
「信用してるしてる。じゃあ、指きりしましょうよ」
そう言って差し出される小指に、後頭部を掻いて恥ずかしさを紛らわしていた俺は、指同士を絡める行為に高揚してしまう。
空が茜色に染まる夕焼けだった今だからこそ、誤魔化せられたが。
渋々指を絡ませると、彼女は心の底から喜びを浮かべている。
この優しい笑顔を何度も見たいから、この人を悲しませたくないから、俺はここにいる。
彼女を護る事が、彼女を脅かす脅威を全て排除していく事で、もう一度、その微笑みを向けてくれるのならば、俺という存在意義が確かに在ると認識出来る。
「約束ね?」
「ああ、約束だ」
そして、俺と彼女は約束を守る為、指きりをした。
小指から伝わる彼女の温もりと、その微笑ましい表情は、まるで小さな太陽のように思えた。
そう――彼女の存在は太陽なのだ。
全ての人に愛される存在。
人が生きていくに必要不可欠な空気と同じように、この国の人々には彼女は必要な存在なのだ。
この人を護りたい。
その意地っ張りな性格も、一人だと不安になる弱さも、全て護れる強い男になりたいと。
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