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絶えぬ戦に疲弊を覚え、一層……背負わされた重荷全てを投げ捨てたいと考えた事もあった。
何を信じ――何を想い戦ってきたのか。
ある者は愛する者の為に。
ある者は富豪と権力を手に入れる為に、その身と命を削り戦い抜いてきた事だろう。
全ての人間が理想を胸に抱いて戦場を駆ける訳ではない。
戦いに身を投じ、他者の血に汚れた己の手が、かつて思い懐いていた正義や志が色褪せていく現実に、誰もが葛藤と矛盾に苛まれてしまう。
それでも――絶望という名の海から這い上がれなくても、己の人生(うんめい)に抗う術が見つからなくても、最期の一瞬だけは、全てを投げ捨ててでも安堵と幸福を胸に眠る事を、赦してくれると信じている。
悠久の時を、いつまでも健やかに、この人の隣で限りある時間を噛み締めながら過ごせれば、絶望と混沌に塗れた、こんな腐り切った世界でも、安らかな時を過ごせられると。
微笑みを浮かべていた彼女が、何か思いついたような顔を見せる。
「どうやら、貴方を探してる人がいるみたいよ」
俺より先に『感知』したようで、繋いでいた小指をそっと離した。
伝わっていた温もりが、すぐに消えていく。
「気を付けてね」
ひだまりのような笑みに隠された不安の表情。
彼女がこのような表情をするのは初めてではないが、今のはいつもと何かが違うような気がした。
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