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もはや肉眼では捕えられない程の遥か上空。
音速を超えて飛翔するその姿は、まさに空の王者と呼ぶに相応しい雄大を持つ。
分厚い雲が視界を遮っているため、パイロットの視界に映る外の世界は暗闇でしかなく、レーダーも無線もその機能を失われている状況は、あまりにも危険区域でもあった。
けれど、パイロットは至って冷静にこの状況を見守っていた。
通信機器のアクシデントは偶発で起こったものではないのだ。
分厚い雲を抜けると、上空を飛ぶ計六機の戦闘機――F-15は、夜月によりその姿を現せた。
ようやく回復を見せた通信機能を使用し、パイロット達は早速言葉を交わし始める。
「ブラボー1より各機。もうすぐ目標地点の上空に到着する。こちらの機影が捉えられる事はないと思うが、万が一という事もある。その時は分かってるな?」
返事はブラボー3から返ってきた。
『まあ、見つかっても奴等にはどうする事も出来ないと思いますけどね』
「万が一って言ってるだろ……と、そう言ってる間に見えてきたぞ」
ブラボー1のその言葉に、パイロット達は一斉に外の下に目を向ける。
彼等の両目が、恐らく人生で最も大きく見開かれた事だろう。
ある者はその光景に一瞬、操縦桿を握り締める事も頭から忘れてしまい、ある者は自分の任務が何なのかを消え去ってしまう程のものだった。
それは、果たして何と表現すればいいのだろうか。
否、言葉のみで、これを表現出来る人間が存在するだろうか。
『凄い……』
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