僕が彼女を殺した理由

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もちろん初めから嫌われる訳ではなく、気軽に話しかけてくれる人も多かったが上手く笑顔が出来ないのだ。見え見えの愛想笑いなど相手に失礼じゃないのかと、ならいっそ無愛想の方がいいのではないか。 笑顔で話しかけてくれる人にも無表情になってしまう。それは単純に失礼という理由だけで構えてしまうわけではない。 人見知りと言う言葉では片付けれない、警戒のレベルで対応してしまうのだ。 自分の性格だけではないと言う事、その事は圭一郎が1番よくわかっている。無意識のうちに壁を作るようになってしまうのには、きっかけがあったからだ。 それは--- 高校3年の頃、密かに想いを寄せている女子がいた。同じクラスであるという他に接点はなく、話した事など指折り程度で、その貴重な会話は相手からかけられたものだった。 「そのペン書きやすいよね」とふいに声をかけられた。彼女は圭一郎のシャーペンを見て自分のと同じ事に気づき、このペンのファンがいたという驚きから思わず声をかけただけの事だった。 圭一郎は相手が彼女だと知るとうるさくなる鼓動に動揺していた、自分でもこれ程までに心取り乱すとは、それ程彼女の事を意識していたのだと瞬時に悟ったのだ。平静を保とうという方にばかり意識を集中した結果、言葉もなくただこくりと頷くのが精一杯だった。
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