12人が本棚に入れています
本棚に追加
女子が振り替えって圭一郎を見たのは、廊下に出た時の一度だけ、そのため圭一郎は声を掛けるタイミングを見失っていた。
そのまま階段までくると掴んでいた圭一郎の腕を振り払らい静かに口を開く。
「ミカ連れきたよ」
女子が話しかけたのは圭一郎ではなかった。階段の踊り場にはミカと呼んだ女子がいたからだ。
「亜希ありがとう」
亜希は早歩きのせいで、少し乱れてしまったショートの前髪を、手ぐしで直しながらミカの横に並ぶ。
近くに窓なく陽の光が差し込まない、温もりのない無機質な光が、辺りを申し訳なさそうに照らしていたのは蛍光灯だった。
ミカの表情が見えないのは、華奢な肩を自分で抱き、俯いていたからだ。その温もりのない光のせいではなかった。
圭一郎は何故、ミカが俯いたままなのかまで見れるゆとりは無かった。有無を言わさず連れてこられた事で混乱していたが、ミカを見て今度は思考が止まってしまったのだ。それもそのはず、密かに想いを寄せる女子、ミカが圭一郎の前にいるのだから無理もない。
時折、生徒達の行き交う声が階段を抜けて廊下へと木霊踊る。重い沈黙を耐えかねたのは亜希だった。
最初のコメントを投稿しよう!