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たった一晩で村人のすべてを喰い尽くした僕は家の前で倒れている母さんの所に行った。
あの時は気づかなかったが母さんの傷は意外に浅かった。
まだ母さんは生きていた。
「母さん。もう大丈夫だよ。誰にも母さんを傷つけさせないからね。」
僕は母さんを抱き締めながら言った。
母さんは生きてはいたがその命が今にも消えそうなのはわかっていた。
「愛華。・・・逃げなさい。」
とても小さな声が僕の耳に届いた。
「どうして?もう何も追いかけてくるものはいないよ。」
「さっき村の人が鬼が出たと叫んでいたわ。きっと妖狩りの復讐しに来たんだよ。愛華も殺されてしまうわ。」
あぁ。
母さんは目が見えないから僕が鬼になったことに気づいていないんだ。
知らなくていい。
僕が哀れな妖怪になった事など気づかなくていい。
「そうか・・・僕逃げるよ。」
「うんと遠くにお逃げ。母さんは愛華が幸せならそれでいいから。」
そう言って母さんの鼓動は止まった。
その瞬間『愛華』も死んだ。
母さんの愛しい息子は死に、狂った哀れな鬼が生まれた。
僕は『哀華』となり、闇へと消えた・・・
end
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