2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「ただいま母さん」
古くて今にも壊れそうな家。
あの頃の僕は母さんと一緒にそこに住んでいた。
父さんは僕が小さい頃に死んでいるので顔すらいまいち覚えていない。
「おかえり。愛華。」
『愛華』
それが昔の僕の名前だった。
よく女みたいとからかわれてが母さんがこの名前を愛しそうに呼ぶので結構気に入っている。
「今日は妖狩りのせいで騒がしかったから耳の方だけで行動できた?」
「えぇ平気よ。手探りだったからゆっくりになってしまったけど。」
母さんは生まれつき目が見えない。
だからいつも音を頼りに行動している。
しかし今日のように周りが騒がしいとそれさえも上手くいかない。
「なら良かった。」
「それにしても・・・妖狩りなんてまた哀れな命を奪いに行くのね。」
母さんは悲しそうに呟いた。
妖怪だって僕等と同じで心を持っているというのが母さんの考えだったので妖狩りの時期になると悲しそうな顔をする。
なにもしていない妖怪まで殺すなんてあまりにも酷いと言う。
しかしその考えは正しかろうと間違っていようとこの村ではただの悪だった。
「あまりそういう事は言わないで・・・」
「わかっているわせずにはいられないの。」
苦笑しながら言う母さんの顔があまりにも悲しげで僕は泣きそうになった。
人間の虚栄心のためだけに殺される妖怪逹。
確かにそれは哀れで悲しい命だった。
しかしこの村でそれを知っている人間は母さんと僕しかいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!