第十一章─反転─

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家族を理不尽に失う悲しみがどれほどか、オレには分からない。 しかし、要さんは痛いほどにそれがわかるはずだ。 でも、それでも、オレには月乃を放っておくことなんて、やはりできない。 「月乃! いい加減に……目を覚ませ!」 オレは何もできない。だけどあいつはオレの友達だ。 無駄だと分かっていても、叫ばずにはいられない。 気を失いそうなほどの激痛に耐えながら、声を張り上げる。 「ここで暴れて何になるってんだ! 暴れる暇があるなら、緋織さんを探せよ!」 必死に叫ぶが、光の中心にいる月乃はピクリとも動かない。 だが、その目には涙が滲んでいるように見える。 「……要さん、すいません」 「川添!?」 要さんの横を通り抜け、もう一度走り出した。 完全に生身での突進。 それが自殺行為だということは分かるが、離れていてはオレの声は届かない。 近づいてどうにかなる問題かと聞かれると、正直自信はない。 だが、安全な場所から叫ぶだけで解決するようなら、誰も苦労しない。 こんなことをするから、要さんにあんなことを言われるんだろう。 だけど、オレはオレの友達が好きだから、何としても助けたいんだ。 そこに優先順位なんてない。
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