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三本もの触手をやり過ごしたことで、月乃への道が開いた。
オレは着地すると同時に、両足に全身全霊の力を込める。
ギシギシと骨が軋み、筋肉は悲鳴を上げ、今にも断裂してしまいそうだ。
それでも、もう一度跳ぶ。
「月乃ぉぉぉ!」
突っ込むように、光のなかに突入し、その中の月乃の肩を掴んで一気に押し倒す。
月乃の背中が地面を滑り、オレは肩を離さずにそれを膝でブレーキをかけて止めた。
「……あ」
月乃の口から、蚊の鳴くような音が漏れた。
「やっと……捕まえたぞ……っ!」
オレの右腕の血が、月乃の制服を赤く染める。
「何で……お兄ちゃん……」
「緋織さんが死んだなんて決めつけんな!
生きているんならまだ助けることができるかもしれねぇだろうが!」
「……分かるんだよ。お兄ちゃんはいない。あたしの力が、それを教えてくれるから」
「っ!」
考えもしなかった。
こいつの力は、いわば何でもありだ。
緋織さんが生きているかいないかすら、どんな状況でも分かってしまう。
だから、こんなにも弱りきって、世界に絶望したような、死人みたいな目をしている。
「お兄ちゃんはあたしの希望だった。お兄ちゃんだけが、あたしを認めてくれた。お兄ちゃんだけが、あたしの生きる糧だった。だからあたしはお兄ちゃんを助けたかった。だけど、できなかったんだよ!」
月乃の声は次第に絶叫に変わっていった。
目からはボロボロと大粒の涙がこぼれ落ち、何も映していない。
触手はいまだに破壊を続ける。
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