第十一章─反転─

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三本もの触手をやり過ごしたことで、月乃への道が開いた。 オレは着地すると同時に、両足に全身全霊の力を込める。 ギシギシと骨が軋み、筋肉は悲鳴を上げ、今にも断裂してしまいそうだ。 それでも、もう一度跳ぶ。 「月乃ぉぉぉ!」 突っ込むように、光のなかに突入し、その中の月乃の肩を掴んで一気に押し倒す。 月乃の背中が地面を滑り、オレは肩を離さずにそれを膝でブレーキをかけて止めた。 「……あ」 月乃の口から、蚊の鳴くような音が漏れた。 「やっと……捕まえたぞ……っ!」 オレの右腕の血が、月乃の制服を赤く染める。 「何で……お兄ちゃん……」 「緋織さんが死んだなんて決めつけんな! 生きているんならまだ助けることができるかもしれねぇだろうが!」 「……分かるんだよ。お兄ちゃんはいない。あたしの力が、それを教えてくれるから」 「っ!」 考えもしなかった。 こいつの力は、いわば何でもありだ。 緋織さんが生きているかいないかすら、どんな状況でも分かってしまう。 だから、こんなにも弱りきって、世界に絶望したような、死人みたいな目をしている。 「お兄ちゃんはあたしの希望だった。お兄ちゃんだけが、あたしを認めてくれた。お兄ちゃんだけが、あたしの生きる糧だった。だからあたしはお兄ちゃんを助けたかった。だけど、できなかったんだよ!」 月乃の声は次第に絶叫に変わっていった。 目からはボロボロと大粒の涙がこぼれ落ち、何も映していない。 触手はいまだに破壊を続ける。
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