9094人が本棚に入れています
本棚に追加
「あたしには……そんなのもう必要ないんだよ!」
月乃が立ち上がり、一層凶悪さを増した触手をオレに向けた。
近寄るな、と言わんばかりに牽制している。
それでもオレは構わずにもう一度走り出した。
「っ!」
同時に触手はオレに襲いかかった。
オレという明確な標的ができた今、もう近づくことは不可能に近い……のだが。
「なんだよ? そんなんじゃすぐにまた捕まえちまうぞ!」
触手の動きはあまりに粗末。
オレが言うのもなんだけど、迷いだらけだ。
「う……わ……ああ」
月乃は顔を両手で覆い、空を仰ぐように体を仰け反らせた。
「ああああああぁぁぁぁぁ!」
全ての触手がオレを囲いこむように一斉に向けられた。
それがいくら迷いだらけで隙間だらけの攻撃でも、数でこられると避けることはさすがに難しい。
いいさ。無傷で済むなんて端から思っちゃいない。
「ったく。この問題児が」
しかし、その触手は黒い一閃によって一瞬で消し去られてしまった。
「……え?」
隣にはいつの間にか黒い剣を持った要さんがいた。
タバコをくわえ、呆れたように言った。
「ま、だから教育し甲斐があるってもんか」
「要……さん」
要さんはぶっきらぼうに親指を月乃に向け、顔を振った。
「男ならやると決めたことは死ぬ気でやり抜いてこい」
「は……はい! ありが──」
「礼なんざいらねぇ。さっさと行け!」
「はい!」
これが最後だと覚悟し、体の中のリミッターを引き抜いた。
最初のコメントを投稿しよう!