第十二章─新しい何か─

5/32
前へ
/546ページ
次へ
やっぱり、これはこれできつい。 皆が無事であったことが分かってよかった。嬉しいはずだ。 なのに、ちっとも喜べない。 右腕の落書きを見ても、特に何も感じない。 ホントに、心が欠けてしまったんだな。 「……一応、あんたはまだ絶対安静ってことになってるからね」 雨宮は急にそんなことを言い、病室の出口に向かった。 「風香ちゃん?」 志摩が心配そうに呼び掛けると、雨宮は小さく笑ながら振り向いた。 「あたし、先に帰るよ。 いつまでもここにいたら怒られそうだし、拓海もまだきつそうだからさ」 「……だな」 それに結城、霧科と続いた。 「怒られるかはともかく、オレは別にいいぞ。どうせ暇だから」 「寝てろ」 バッサリと霧科によって切り捨てられた。 オレ、何か悪いことしたっけか? 「寂しがんなよ。また来てやるから」 「結城……ジュースないなら来ても入れねぇ」 「悲しい友情だな!?」 珍しく結城に突っ込まれ、何か新鮮な気分。だが心は晴れない。 天候で表すなら雷雨だ。
/546ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9094人が本棚に入れています
本棚に追加