犬の話

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雨の日、段ボールのなか、犬が居た。 全身ずぶ濡れで、身体が震えている。 力がさっぱり入らない。 じとじとした空気。雨はひすてりっくなほどに体をたたいてくる。 もうくたばるのかな。 僕は昨日捨てられた。 理由は簡単。足が悪くなったからだ。 人間にとっていらなくなったからだ。 人間に捨てられた。 2年間だったかな?飼い主とはそのくらい一緒にいた。 飼い主と会う前は、子犬のころに捨てられていたらしい。 らしい、というのは、その前の記憶なんか、新しい飼い主との日々に埋もれたからだ。でも、それは決して幸せとは言えなかった。 「お前、もういらない」 今でも頭の中でこだましている、宣告。 2度、捨てられた。 何度かこのだんぼーるを覗き込む人間もいた。 反応は眉を潜めるか、抱き上げて、遊んで、またね。と去っていくだけだ。 元の飼い主も最初のころは可愛がっていた、けれど、だんだんと、子供がおもちゃに飽きるように、僕に飽きていった。 散歩の回数も減っていき、最後にはさせてくれなかった。 ………………僕は人間を怨む。僕を首輪で縛り、己の快楽のため束縛する人間を。自分勝手で傲慢な人間を。 身体が重い。雨でも吸ったみたいだ。もう死ぬのかな。 最期まで、ぐちゃぐちゃした何かが渦巻いていた。 今度、生まれ変わってからでもいい。 もし次人間に会ったら、噛み殺してやろう。 ごそっ ………おや、だんぼーるを開く音。 目の前に、黄色い傘をさして、黄色いかっぱを着た子供があらわれた。 無機質な目でこっちを見ている。その目をこっちも見つめ返していた。 雨の音が数秒、静かに聞こえた。 ―――あ、人間に会ったら噛み殺すんだった。身体を起こそうと、足を踏ん張ったが、踏ん張れずに崩れた。がちんっと顎を打った。 ぐっ……ばたん ぐっ………ばたん 身体を起こそうと幾度も足を踏ん張る。 ぐっ……… 立ち上がれた。足が震えて立った体制を保ちにくい。噛み付こうと一歩近づいた。でも、どしゃりと、できずに崩れた。 畜生 僕の工程をただただ、じっと見つめる子供。 頭を子供に向け、噛もうとした。当然、歯は届かずに空を噛んだ。 どっかへ去ってくれ………。 低い声で、唸った。それでも子供は逃げない。 俺の目の前から消えてくれ。 最期まで、大っ嫌いな人間の姿を映させないでくれ。 いつのまにか、涙がでてきていた。もどかしい。 殺せない
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