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「う、くうぅぅぅ!! 直んないっ!!」
それほど高価ではないヘアアイロンを握り締め、琴宮 百合姫(ことみや ゆりひめ)は鏡を睨んだ。
正確には、鏡に映った自分の姿。
そして、その紅髪の両側頭部の、綺麗にはねた髪を。
「おい、五月蝿い」
迷惑そうな目で、ぼそりと呟いた如月 梛(きさらぎ なぎ)は、自分の栗色に染められた髪をぐしゃりとかきあげた。
眉間に皺を寄せ、呆れたように目を伏せる彼もまた、三等級吸血鬼である。
あからさまな呆れ声に、百合姫は文句を言った。
「だって、だってね? 毎朝毎夕毎晩、洗おうが乾かそうがアイロンかけようが直らないんだよ? どうなの!?」
「……どうしようも、無いだろう」
百合姫の両側頭部には、外向きにはねた髪がある。
その髪は垂れた獣耳の如く丁度よい角度にはね、とある先輩には“うさぎ”と呼ばれる程なのだ。
「いい加減、諦めた方が賢明だな」
梛の呟きに、百合姫は悶絶した。
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