亡夢の影

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「──以上、今回の報告です」  理事長室、デスクに頬杖をついているやる気無し男は、正面に立つ桃哉の言葉に顔を上げる。 「協会本部からは、何て?」 「事件解決を認知しましたと」 「ふーん」  やる気無さげである。  桃哉は何枚かの報告書を理事長のデスクにぱさっと置き、クスクスと笑った。 「面白いお話、聞かせて差し上げましょうか」 「なに?」  興味を示した理事長に、桃哉は何か企むような笑みを浮かべて楽しそうに言う。 「あの二人、ついに付き合い始めたみたいですよ」 「へぇ、それは──」  理事長は一瞬瞠目して、両手を組んでデスクに肘をつき笑う。 「面白い話だね」  でしょう? と言って理事長室を去って行った桃哉を見送りながら、理事長は優しげに目を細める。  よかったと思う。  今回のことで、いつの間にかいろんな心が動いたことが。  その中に、不毛なものがあるとしても。
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