《終章・紅朱編 紅い糸、紡いで ―End of curse―》

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「な、びっくりしだたろ?」 「は、はい……びっくりいたしました……」  「びっくりした」というよりは、現在進行形でびっくりしているのだ。  落ち着かなくてキョロキョロしたり、いずまいをただしたりしている日向子に、右隣に座る紅朱はたまりかねて笑う。 「心配すんなって」  彼が座っている場所は、ドライバーズシート。  何とも見慣れない光景がそこにあった。  紅朱から「迎えに行く」という電話が入った時には、てっきりいつものようにバイクを飛ばして来るのだろうと思った。  ところが待ち合わせの場所へ向かった日向子を迎えたのは、いつも機材車として玄鳥が運転している、あの車だった。  紅朱がそれを運転してきたのだと知った瞬間、彼の思惑通りに日向子は心底驚いたのだった。 「免許証、お持ちだったのですね」 「取ったんだよ、ついこないだようやくな。 ……練習してたのはギターだけじゃない」  確かに見慣れた車体の前と後ろには、鮮やかな色合いの「初心者マーク」が輝いていた。  肝心の運転のほうは、身の危険を感じるほどではないが、やはりぎこちなさを残しており、技術云々というよりは運転者の性格によるものかもしれないが……少々荒っぽい。  雪乃や玄鳥の安全運転に慣れている日向子には、全く別の乗り物のようにすら感じられた。 「あの、何故、わざわざ紅朱様が免許を? 玄鳥がいらっしゃらなかった間、蝉様や有砂様が機材搬送をなさってましたし、特に必要なかったのでは……」 「……綾が担ってたもんを、全部自分で背負わなきゃなんねェ、と思ってたからな……」 「紅朱様……」 「厄介な性分だよな、実際に背負えるかどうかもわかんねェのに抱え込む……一生直んねェかもな」  自嘲を含んだ呟きだったが、その横顔には言葉ほど気負ったものは感じられなかった。  玄鳥は、帰って来たのだ。自らの意志で。  今の紅朱には、彼の役割まで背負う必要はない。 「実はな、運転の練習がてら、一昨日綾と実家に帰ったんだ」
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