39人が本棚に入れています
本棚に追加
軽く顎で指し示した先には、フロントガラスに吸盤で取り付けられた「交通安全」のお守り……が、何故か3つ。
「地元の神社のお守りなんだけどな、ジジイとババァと綾がひとつずつよこしやがって……そんなに俺の運転が心配かって感じだよな」
それは、家出同然に家を出た紅朱にとっては数年ぶりの家族団欒を過ごせたということ。
特に対立していた父親とも、ちゃんと向き合うことができたということを意味していた。
「……綾と話し合って、打ち明けることにしたんだ……綾が本当の両親のことを知ったってこととか、色々な。
結局ババァは泣かしちまったけど、話せて良かった。ようやく溝が埋まったって感じたぜ」
そう語る紅朱の声も表情も、晴れ晴れとしている。
「……ジジイも、俺たちのやりたいようにやれ、って言ってくれたしな」
茨に閉じ込められて眠りについた、お伽噺のお城のように、長い間浅川家の時間は止まっていたのかもしれない。
秘密と不安を抱えて、大切なものを失うことに怯えて、閉ざされていたのかもしれない。
真実が明らかになったことでいっそ、家族の絆は強まった。
紅朱の独りで抱え込む性格は確かに簡単には変わらないのだろうが、今までと本当に何も変わらないわけではない。
力で押さえつけるばかりでは解決しないことに気付いた彼は、本当に潰されそうになったらちゃんと周りに頭を下げて協力を求めることができるに違いないし、協力を求めれば力を貸してくれる人間はたくさんいる。
彼の最愛の家族、そして頼もしいメンバーたち……それにもちろん、日向子もその一人だ。
「これで何もかも、落着ですわね」
「……」
「……紅朱様?」
「……」
紅朱が急に黙ってしまったので、日向子は何か走行に問題でも発生したのかと、思い出したようにまたまたそわそわしてしまう。
しかし理由はそういうことではなかった。
結局日向子のマンションの前に着くまで、沈黙を守ったままだった紅朱は、車のエンジンを切った後で、ようやく口を開いた。
「……お前、断ったんだってな……綾の、告白」
最初のコメントを投稿しよう!