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あまりにも意表を突いた言葉に、日向子は思わず顔を赤らめた。
「それは……」
紛れもない事実だった。
heliodorとBLA-ICAの運命のライブの、その後。
合同ミーティングという名の合同打ち上げの帰り、日向子をマンションまで送る役を買って出た玄鳥は、今と全く同じようなシチュエーションで、マンションの前に停めた車の中で、自らの想いを告げた。
そして日向子は、その想いを受け入れることができなかった。
「……他に、好きな奴がいるって言ったらしいな」
「……はい」
紅朱があまりにも神妙な顔つきをしているので、日向子もつられて真剣な顔になってしまう。
「……お前の、好きな奴って……誰だ?」
「えっ……」
心臓が跳ねる。
「やっぱり、高山獅貴か……?」
「……いいえ……」
それはもうすでに卒業した「憧れ」。
今の日向子にはもっと大切な人がいる。
「……俺の知ってる奴か?」
「……はい」
「……heliodorの、誰かなのか?」
どんどん鼓動が加速する。それは多分、お互いに。
「……はい」
「……日向子!」
名前を呼ばれると同時に、肩に手がかけられる。
わずかに痛みすら感じるほど強く掴まれて、驚いている間に、黒い色素の薄い、炎のような2つの瞳に真っ直ぐ射すくめられていた。
「……日向子、俺は……お前が、好きだ」
「……紅朱様……?」
「自分でも最近まで自覚してなかったが、もう随分前からお前のことは、女として見てたと思う……」
声音にも、肩に感じる指先の感触にも、じんじん熱を帯びているようだった。
「……それもただの女じゃなく、特別な、女としてだ。
……だから……」
次の言葉が発せられるまでのわずかな沈黙が、まるで永遠のように長く感じられた。
紅朱は、その眼差しをわずかに細めて微笑する。
「……お前は幸せになれよ、絶対」
「……え?」
肩を掴んでいた手が離れて、微熱だけがそこに取り残される。
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