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目が覚めたようだね。
まだ意識がはっきりしないかもしれないけれど、時間が無いので手短に説明するよ。
ここは始まりの場所。
キミは今からあの門をくぐって世界に出る。
キミは今から『生まれる』んだ。
おいおいちょっと待ってくれ、焦ってはいけない。
ここを通る前に言わなきゃならない事がある。
なぁにすぐ終わるさ、大人しく聞いていてくれよ。
あの門をくぐるには通行料がいる、キミの肋骨を一本だ。
痛いのは嫌だって?そりゃそうさ、誰だって嫌だ。
まぁ問題ないさ。最初は泣くほど痛いだろうけど、すぐに痛み止めが効いてくる。
でもその薬もずっとは効かない、キミが大人になるにつれて効き目が無くなる。
胸の痛みに耐えられなくなるかもしれない、眠られなくなるかもしれない。
それじゃ困るって?
安心するといい、キミの肋骨は世界のどこかに置いておこう。
キミがそいつを見つけられれば、痛いのともお別れできるんだ。
何?見つけられなければどうなるかって?
あー…うん、まぁいつかは慣れるさ。人間という生き物は、慣れれば感覚が麻痺していくものだからね。
ちなみに見つからない可能性は決して低くない。広い世界に一つだけ、しかも似たものもたくさんあるのだからね。
…さてそろそろ時間だ。
それじゃあ目を瞑って。
――健闘を祈るよ。
赤ん坊の泣き声を聴きながら、手にした肋骨を見下ろす。
やがて、それは大きく膨らみ人間の形になった。
目が覚めたようだね。
お疲れ様。
これからキミは世界に『生まれる』。
するべきことはただ一つ。
ほら、この泣き声が聞こえるかい?
探してほしいんだ。
今向こうで泣いている。
キミの片輪れだよ。
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