繋や

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繋や

なんとなく。 そんな漠然とした感じではあるけれど、がむしゃらに《償い》にはこだわっていない。 それでも 涼花の足は《繋や》に踏み入れていた。 「今日はね、梅昆布茶」 相も変わらずに、香織は優しい笑みを浮かべて飲み物を勧めてくれる。 梅の香りを含んだ湯気は、微かな食欲を湧かせていた。 菓子おけに並べられた煎餅を、断る理由はなかった。 「これは一押しよ」 ふふっと笑って、小指ほどの棒煎餅をひとつ頬張ってみせる。 光沢のある海苔が巻かれた煎餅をつられて頬張り、音を立てて食べた。 「あのぅ…」 「ん?」 焦がし醤油が舌に広がっていく。 「一番はじめに来たとき、なんですけど」 「うん」 「あたし、名前を言ってないのに何で分かったんですか?」 噛み砕く音が一瞬だけ止まった。 しかしすぐに、ザクザクとした音が、耳に美味しく響きはじめる。 「企業秘密」 香織はウインクをして、湯呑みに唇を寄せた。 納得できなかった。 《企業秘密って、なに?》 そもそも。 占いらしくない占いも、涼花は気になって仕方がないのだ。 昨日までは、由美子ちゃんのことやママのことで頭が一杯だった。 でも、雪菜のおかげでなんとなく、ふっきれていた。すると おざなりになっていた疑問が、むくむくと頭を重たげに上げ始めた。 疑問が掲げた先頭の旗には、最初のクエスチョンが存在をアピールしていた。 しかしそれを 『企業秘密』 の四文字で香織はきっぱりと断ったのだ。 それ以上は教えないと。 いつのまにか消え失せた煎餅の味を、梅昆布茶で清めることもなく涼花は考え続けてた。
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