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「……よく、わからないんだけど?」
雪菜は慎重に言葉を選んで出した質問だった。
「仮に、だよ?前世無しが前提で、うまくいかない親子関係って涼花んちだけ?」
「…………うちだけじゃない…ねぇ」
「だよね?」
屋上の張り巡らされたフェンスに寄り掛かり、雪菜は編目を握っている涼花の表情に注意を向けていた。
「まぁねぇ…、ショック。だよねぇ」
ぷかりと浮かぶ雲をみつめながら呟く。
涼花は追い詰められて、子細を打ち明けていた。
冷たい反応を覚悟していただけに、答えてもらえるとは予想していなかった。
ふたりは無言になっていた。
緩やかな風なのか、羊のようなもこもことした雲は、眺めている間は見上げた位置からあまり動いていない。
「涼花パパの言うとおりかもね」
「え?」
「……大人にならなくちゃ、わからないことって結構あるんじゃない?」
「……………ん」
仮に。
雪菜の言うように前世を知らなかったとして。
自分とママの関係はどうなっただろう。
ずっと険悪な関係のままやがて大人になり、ひとり暮らしを始めて、ママのことを思わない日々を送る。
容易に想像がついた。
「涼花ママとの関係を修復するのに、いい機会なんじゃない?」
「……どうしたらいいのか全然わかんない」
泣きたい気持ちになった。
「普通にさ、おはようとか。聞かれたことは一応なんか言うとかさ。そんなに難しいことじゃないよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
前世を知ったから、ママとの関係を修復する機会に恵まれた。
そう考えると、香織が指針としなさいと話していたことが、すんなりと納得できる気がした。
「なんとなくわかったような気がする」
「なに?」
「『魂の絆』とか学びの途中とか」
「そう?」
「うん」
すっきりした表情に自然と笑みが浮かんでいた。
「先輩はね、遣り遂げた達成感に慢心しない学びだって」
「なにそれ?」
「わかんない」
鈴が鳴るような笑い声をあげて、涼花はフェンスから手を離した。
雪菜が見上げていた雲は変わらずにそこに在った。
普通に、会話ができるようになったその先の未来。
想像もできないけれど、きっとママとの関係も険悪からはマシになっているだろう。
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