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湯呑み茶碗をテーブルに戻すと、涼花は香織のきょとんとした表情を見つめた。
「聞きたいことがたくさんあるんです。でも、企業秘密って言われたら、質問に答えてもらえないんじゃないかなって。そう思うと何も聞けなくて…」
「うーん、そっかぁ」
数種類の粉末スティックが、陶器に入っている。梅昆布茶やしいたけ茶などの変わり種だ。
香織はその中から、くず湯を選びだした。
「んー、答えられないものはムリだけど…そうねぇ」
陶器を涼花のほうへ寄せてから、粉末スティックをカップに入れた。
「涼花ちゃんが聞きたいことを、教えてくれると助かるわ。そうしたら答えられるのかムリなのか、話せると思うの。どう?」
ポットのお湯を注ぎながら、香織は至って真面目に涼花の表情を伺った。
「答えられないものって何ですか?」
「理に触れること、かな」
「ことわり?」
「そう、理」
「ことわりって?」
困ったような笑みを浮かべて、香織はスプーンを回した。
「涼花ちゃんの聞きたいことは、私の言葉の端々に浮かんでくる疑問なの?」
紡ぐべき言葉が出てこなかった。
聞いてはいけない事だったのか、それとも違うのか判断できなかった。
「ごめんね、言葉を変えるわ。たぶん、涼花ちゃんは私が使う用語に疑問が湧くのでしょう?
理解したいと思ってくれるから、質問になるのよね?」
涼花は素直に頷いた。
「問題なのは、用語の全てに湧く疑問だけで今日が足らないことなの。涼花ちゃんが聞きたいことって、用語の説明かしら?」
違う。
心のなかで否定が生まれた途端、枝葉に伸び続けていく疑問が成長を止めた。
香織はスティックを選ぶように勧めた。
涼花の答えを急くことはしない。
「生まれ変わりって何の為に生まれ変わるの?」
お茶どころではない。
陶器を真ん中へ戻すと、涼花は身を乗り出した。
「人によって違うけれど《魂の学び》の為よ」
にっこり。
魂の学び?
つい、用語の説明を求めそうになる。
辛うじて、質問を飲み込んでいた。
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