池畠涼花の件

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香織の視線がどこかを見ていた。 つられて振り向いた先には、クリーム色の壁紙があるだけだ。 見ているというよりも、授業中にうわの空になっているような雰囲気だ。 黒板を見ているのに、休みの日に出掛けた街を思い出しているような状態。 そんな感じを受けた。 目の前に座る自分さえ、その瞳に映っていないようだ。 想像していた占いとは、ずいぶん違っていた。 雪菜に詳しく聞いていたら、そんな風に思わなかったかもしれない。 水晶玉もカードも使わないし、何かをメモする道具も見当たらない。 テーブルにあるのは、桜の花びらをあしらったティーセットと、百円ショップで売っているような砂時計だけ。 もしかして砂時計を見つめてるのかも、と虚ろな瞳を覗きこんでみた。 しかし壁紙でも砂時計でもなく、空中に視線は向けられているようだった。 もっと何か根掘り葉掘り聞かれるのだと、勝手に想像していただけに、居心地の悪さを感じていた。 勧められたアップルティーに、角砂糖をふたつ落として掻き混ぜる。 (あたし、やっぱり名前言ってないと思うんだけど) 不思議でしかたない。 今日はじめて逢ったのに、どうして名前を知ってるんだろう。 角砂糖はみるみる溶けて、茶色の透明な液体のなかで陽炎のように揺れた。 スプーンをそっと置くと、ひと口含んで味わった。 甘酸っぱくて美味しい飲み物だなと、涼花はアップルティーが好きになった。
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