池畠涼花の件

7/25
前へ
/39ページ
次へ
ゆっくりと話してくれたにも係わらず、涼花にはよく理解できなかった。 返事すらできずに香織の澄んだ瞳から、手にしたカップのなかで揺れているアップルティーに視線を落とした。 「じゃあ最後になるけど、……夢で、前世のことを涼花ちゃん自身が観るかもしれない」 香織は軽く息を吸って吐いた。それからこれまでよりも、よりゆっくりと言葉を紡ぐ。 「決して捉われないようにするのよ」 重みを感じた。 意味を伺い知ることもできないのに、香織の表情は至って真剣そのものだったからだ。 最後の砂のひと粒が落ちて 「セッションはおしまい」 と告げられた。 《繋や》を後にして歩きだすと、ポケットにいれた名刺をとりだして見つめた。 『《繋や》    店主 橘 香織   連絡先090(***1)****』 番号の下には手書きで赤い文字が記してあった。 *緊急のときには営業時間、夜間を問わずに電話をしてください。 めくると後ろの面には、その営業時間が記載されている。 涼花は立ち止まって、いま出たばかりの店を振り返って見つめた。 サラリーマンといった雰囲気の男性が、ちょうど扉を開けようとするところだった。 (緊急ってなんだろ) 分からないことだらけだ。 雪菜の顔が脳裏に浮かび、話してみようと思った。 話を聞かせてねとも言っていたし、みんなで調べるのも悪くはない。 涼花は深く考えるのをやめて再び歩きだした。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加