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ゆっくりと話してくれたにも係わらず、涼花にはよく理解できなかった。
返事すらできずに香織の澄んだ瞳から、手にしたカップのなかで揺れているアップルティーに視線を落とした。
「じゃあ最後になるけど、……夢で、前世のことを涼花ちゃん自身が観るかもしれない」
香織は軽く息を吸って吐いた。それからこれまでよりも、よりゆっくりと言葉を紡ぐ。
「決して捉われないようにするのよ」
重みを感じた。
意味を伺い知ることもできないのに、香織の表情は至って真剣そのものだったからだ。
最後の砂のひと粒が落ちて
「セッションはおしまい」
と告げられた。
《繋や》を後にして歩きだすと、ポケットにいれた名刺をとりだして見つめた。
『《繋や》
店主 橘 香織
連絡先090(***1)****』
番号の下には手書きで赤い文字が記してあった。
*緊急のときには営業時間、夜間を問わずに電話をしてください。
めくると後ろの面には、その営業時間が記載されている。
涼花は立ち止まって、いま出たばかりの店を振り返って見つめた。
サラリーマンといった雰囲気の男性が、ちょうど扉を開けようとするところだった。
(緊急ってなんだろ)
分からないことだらけだ。
雪菜の顔が脳裏に浮かび、話してみようと思った。
話を聞かせてねとも言っていたし、みんなで調べるのも悪くはない。
涼花は深く考えるのをやめて再び歩きだした。
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