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池畠涼花の件
ドアにつけられた入店を知らせるチャイムが鳴った。
避暑地で売られていたその音色は、蒼く細い透明な硝子細工の風鈴のものだ。
「あのぅ」
店内を見回して涼花は、消え入りそうな声を発した。
モーツァルトの曲がそれに答える。
留守なのだろうか。
さほど広くない店内は
占い屋というよりも
小さな事務所のようだ。
壁にかけられたホワイトボードには、ひと月のスケジュールが書き込まれていて、余計にイメージから離れていく。
「こ…こんにちはぁ」
ほんの少し音量をあげて、もういちど声をかけてみた。すると、奥に行けそうな通路にかけられた、暖簾の向こうから返事が聞こえた。
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