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「お父さん!」
部屋を開けると彼女の明るい声が響く。
「まだ寝てなかったのか?」
僕はそう言いながらベッドの横の椅子に腰かける。
「お話の続きは?お姫さまはどうなったの?」
急かすように僕の袖を引っ張る彼女を見て胃がきゅうとなった。
「お姫さまはな…お姫さまは、お城に連れ戻されて元のつまらない生活に戻りました……毎日毎日退屈で窮屈な毎日に…」
前と違うことは、お姫さまがお祈りを始めたことでした。
王子さまが言ったのです。
流れ星は願い事を叶えてくれる、と。
だから、お姫さまは祈りました。
王子さまにまた会えますように、と。
毎日毎日お祈りをしました。
流れ星が見えなくてもお祈りをしました。
なぜならこの世界のどこかで星が流れているかもしれないから。
来る日も来る日もお姫さまはお祈りを続けました。
晴れの日も、雨の日も。
昼間だろうと、真夜中だろうと。
お姫さまは祈り続けました。
王子さまに会いたい一心で。
ある年、獅子座流星群が訪れ…
「星!!!」
ベッドに横になっている彼女が大きく声をあげた。
「お父さん、星!お星さまが、王子さまのお星さまが、お空からこぼれてきた!」
窓の外に目を向けると無数の火の粉が舞っていた。
敵襲か。
大きな戦闘機からは次々と焼夷弾が落とされる。
それはまるで地上に降り注ぐ星屑のように。
「ごめんな、今日のお話はこれで終わり……」
彼女を振り替えると手を組んでお祈りをしていた。
胃がきゅうとなる。
僕は思わず彼女を抱き締めた。
「お父さん…?お祈りしなきゃ…お姫さまが王子さまに会えますように、って…」
「そうだな……そうだな……」
よく目の見えない彼女は、爆弾を星だと思い込み、純粋な彼女は童話の中の姫のためにお祈りをする。
僕はなんども頷いた。
「用事があるんだ。お祈りをしたらちゃんと寝るんだよ?」
僕は念を押して立ち上がった。
電気のスイッチに手をかける。
「おやすみ、マナ」
そう言って、自分を「お父さん」と呼ぶ妹に別れを告げる。
ぱちん。
長い夜が始まった。
ーendー
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