発端

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発端

1 コツ…コツ…コツ…。 一人で廊下を歩いている足音が、うるさいぐらいに周囲に響きわたる。 ここはどこだろう…? 学校の…廊下…? 夕暮れ時だろうか。片側の窓から差し込む、真っ赤な夕日がやけに眩しい。 一直線に延びた廊下はなぜか終わりがなく、左側の窓も延々続いている。 学校の廊下にいるはずの景色なのに、片側は白い壁ばかりが延々続いている。こちらもまったく終わりがない。 赤い…。真っ赤だ…。 赤い絵の具を一面にぶちまけたように世界は赤く染まり、周囲の時間は止まったように、ひっそりとしている。 そんな中、ただ一人だけ歩き続けている。 コツ…コツ…コツ…。 立ち止まる。 見られている。 すぐ後ろから。 そっと振り返る…。 そこにはボロボロのマネキン人形が立っていた。 ゆるくウェーブのかかった黒髪。なだらかな肩の線。豊かに膨らんだ裸の胸。全体的に丸みを帯びた、しなやかな体のライン。なまめかしい腰のくびれ。細い手足。 紛れもない裸の女性のマネキン人形がそこにあった。 しかし、それらを異常たらしめているのは、何よりもその不可解な形状だった。マネキン人形は全身の至る所にヒビが入っている。 頭の左側、頭頂部から目の上にかけては三分の一が崩れ落ち、左手は二の腕から先がない。まるで高所から落とされたような壊れたマネキン人形。 それがぼんやりと立っている。 ひたすら不気味で生々しく、目を背けたくなるような凄惨な姿をしていた。 感情のない虚ろな目。底なしの虚無へと突き落とすような、その凍り付いた表情。 冷や水を浴びせられたようにぞっとした。 全身を磔にされたように動けなかった。 ふいに。 マネキンの目からつう、と赤い線が一筋、頬を伝って流れ落ちる。 涙…? 赤い涙…?
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