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体にかかっていたタオルケットを払いのけるようにして、成瀬勇樹は慌ててベッドから跳び起きた。
息が荒い。心臓が早鐘を打つようにバクバクとせわしなく鳴っている。裸の背中が、じわりと汗で湿っているのがわかった。
隣では、すやすやとやすらかな寝息を立てて、クラスメートの沢木奈美が裸の背中を向けて眠っている。
激しい情事が終わった後の心地よい余韻とけだるさに任せ、二人でそのまま眠ってしまったらしい。
いましがた見た悪夢の光景を思い出し、勇樹は奈美の背中まで伸びたストレートの黒髪をそっと撫でた。
「うぅん…」
奈美は甘えるような、か細い声をそう漏らすと、再びすやすやと寝息を立て始めた。
勇樹は途端にほっとして自分の胸を撫で下ろした。
それにしても…。
おかしな夢を見たものだ。
勇樹は自分の肩を抱くようにぶるりと身を震わせた。
じめじめした六月の梅雨。
不快な暑さも忘れるくらいに部屋の中は涼しかったが、あんな夢を見た勇樹にはただ寒いとしか感じられなかった。
エアコンのリモコンを探し当て、少し温度を上げる。
寝ている奈美を起こさないように、勇樹はゆっくりと起き上がって暫しベッドに腰掛けながら、ぼんやりと白い部屋を眺め渡した。
白い壁紙を基調とした、清潔感のある八畳ほどの広い洋室に勇樹はいる。
一人っ子の奈美には広すぎる部屋のような気もしたが、この辺りが一人娘を持つ親心というものなのかもしれない。
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