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旅行から帰って、しばらくは、松田さんと顔を合わせることはなかった。
恵梨には、何故?と聞かれたが、連絡先も交換してなかったので、連絡も取り合うこともなかった。
美知代さんが亡くなったことは、恵梨から聞いて知り、彼がどうしているのか気になったが、彼の様子を知ることもなかった。
旅行から2ヶ月くらい経ったある朝、私は、朝寝坊し、遅刻しそうになって、全力疾走で出社し、息を切らしたままエレベーターに駆け乗った。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ………」
私の声は、狭い空間の中、響いている。
「あいかわらずだな(笑)それ、誘ってんの?……いやらしい声……(笑)」
松田さんだった。彼は、笑いながら、エレベーターを降りて行った。
その夜、恵梨の誘いで会社の近くのバーで飲むことになった。
バーに入ると、カウンター席の男の人と目が合った。松田さんだった。が、彼は、プイッと目を反らした。私は、彼と少し離れた場所に座った。
約束の時間になっても恵梨は来ない…。電話を掛けようとケータイを開こうとした時、隣に松田さんが座った。
「恵梨なら来ないよ。」
「え?」私は、聞き返した。
「仕掛けられたんだ。時間なっても来ないし、おかしいと思ったら、こんなメールが来た。」
彼は、メールを私に見せた。
―――ごめ~ん(^^)私達、これからデート☆私達は行けないから、2人で楽しんでね~( ̄^ ̄)yバ~イ(^_^)v―――
恵梨からのメールだった。
「どうする?帰る?」
彼は聞いた。
「…そう…。せっかくだから飲んじゃおうっかな~。」
「じゃ…、マスター?いつものヤツ。彼女にも。同じヤツ。」
私がそう言うと、彼は、カクテルを注文した。
出て来たカクテルは、マーベリーという名の甘ずっぱいカクテルだった。
「ごめんね…、恵梨が…。」
私が言うと、
「何で君が謝る?君だって被害者だろ?」
「…そうだけど…。」
沈黙が続く……。
私は、何か話さなきゃと思い、口を開いた。
「でも、久しぶりだね……。なんか、そう思うと、こういうのも良いかなぁ…なんて。フフフ」
私は、軽く笑ってみる。
が、彼の反応は鈍く…。
「そぉ?」と返事するだけだった。
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