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父親は息子の髪を撫でながら、ゆっくりと夢の中から引き戻そうとしている。
時間を掛けて起こすことが父親の役目であり、それは日頃の多忙の穴埋めのつもりでもある。
普段構ってやれないことを気にしているが、息子が眠っている姿をただ見ているだけで父親は一入の幸せを感じるのだ。
父親が至福の時間を送っていると、自然と陽太の瞼が開いた。
まだ瞼を上げただけで、夢から覚めていないかもしれない。
父親は自分を認識していると信じて、もう一度髪を撫でた。
そして夢から完全に息子を取り戻すために、じっくりと目を見て一言呟いた。
「遊園地」
その一言を聞いた瞬間、陽太は父親から目を離し身体を起こした。
そして颯爽と布団を抜け出し、リビングの方へ歩いて行った。
父親の役目などはこの程度だ。後は遊園地まで我が子を車で送り、疲れ切った子供達を乗せて家まで帰る。そしてまた多忙な毎日が始まる。
たったこれだけの事が、その後の多忙な生活の原動力となる。
いまの自分の生きる動力源は子供達しかない。父親はそう心の中で確信していた。
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